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【麻酔科学とは】
麻酔科がどんな臨床医学か一般には意外と知られておりません。それは歴史的にみて、整形外科や脳神経外科が外科から独立した科として存在するようになったのは比較的古いのに対し、麻酔科学が我が国に独立した臨床の科の一つとして大学医学部の講座に創設されたのは第2次世界大戦後だと言うこともありましょう。それに対し、西洋ではかなり早くから、麻酔科学が独立して発達してきました。例えば、英国では、世界最初の麻酔科専門医Dr. John Snowが1853年、ビクトリア女王のレオポルド王子出産に際し、クロロホルムによる無痛分娩を既に行っております(クロロホルムはその肝臓毒性作用のため現在は使われておりません。ちなみに、Dr. John Snowはロンドンの上水道、下水道を完備させたことでも知られております)。それから、痛みに対し我が国の医療では間違った考えで捉えていたきらいがあります。痛みは病的サインであると同時に疾患そのものであることも、また、疾患を悪循環に変えるトリガーでもあることが解ってきました。しかし、明治以来ドイツ医学を取り入れた我が国の医学では単に病的サインとしてのみ捉えていたからでもあります。また、痛みを我慢することが美徳である儒教的精神にもその原因を辿ることが出来ましょう。痛みが精神的・肉体的苦痛であることはむしろ患者さんの方が良く知っているものです。病体生理学的に、痛みは自律神経障害をもたらし、心臓や脳の血行障害や末梢の循環障害をきたすことが知られています。種々の疾患が痛みを取ってあげるだけで、病態の良循環を招来し快方に向かうことが知られています。ガン末期の患者さんで癌性疼痛がある場合、痛みを取り除いてあげるだけで、全身状態が改善することも知られています。終末期医療で患者さんの痛みや息苦しさ、精神的不安を除いてあげ、安楽な終末を迎えさせてあげることは、医療の原点でもあります。
さて、麻酔は西欧では痛みとの戦いとして発達してきましたので、英語ではAnesthesia(anは無、esthesiaは感覚の意)、麻酔科学をAnesthesiologyと言います。従ってAnesthesiaを邦語に直訳すると「無感覚」あるいは「無痛」となりますが、これを誰が最初に「麻酔」と訳したのかよく解っていません。一説によると、中国の三国時代に華陀と言う医師が使用したのが初めだとも言われています。いずれにしても、麻酔という言葉から麻酔科学という言葉が我が国では使われていますが、時として一般には誤解されやすい言葉でもあります。近代麻酔科学は最初に使われた言葉からはかなり異なった内容になっております。
その取り扱う臨床的な分野はかなり広いものとなり、大別すると、
- 手術中の患者さんの全身管理、即ち、手術の侵襲から生体を守るために痛みを取り、呼吸や循環、代謝を生理的な範囲に保つ臨床医学
- 痛みを取る知識や技術から発達したペインクリニック
- 侵襲から生体を守る知識や技術から発達した集中治療学・救急蘇生学
などです。学会も、主体は日本麻酔科学会(社団法人)とその地方会ですが、関連学会として、ペインクリニック学会、集中治療学会、救急医学会、臨床麻酔学会、其の他があります。その守備範囲が広いこともあって、麻酔科学の定義もなかなか難しいものになっています。手術中の全身管理学も、米国などではさらに分化し、心臓麻酔、神経麻酔、産科麻酔、小児麻酔、一般外科麻酔、などに分かれ、それぞれの専門医がおります。我が国でも次第にその傾向が出てきておりますが、まだまだマンパワーの足りないのが現状です。
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